才国琶山の中腹にある翠微洞へと梨耀が戻ってくると、決まり事のような口調で僕達が出迎える。つまらなさを紛らわすため鈴に声を掛ける梨耀は、慶国に新しく即位した女王の事を教えるのだった。蓬莱の生まれで旅芸人の世話になった事もあり、鈴と全く同じ道を歩みながらも国の王となった女性。梨耀はそうやって鈴を罵っていた。
反抗すればまた言葉の分からない生活に戻ってしまう事を怖れるあまり鈴は耐えるしか無かった。だが鈴の中で一つの感情が湧いて出る。同じようにこの世界へと流されてきた景王なら自分の痛みや悲しみを理解してくれて、ここから救い出してくれるのだと鈴は思ったのだ。
一方、芳国恵州にある里の近くに祥瓊の姿があった。季節は冬で、春までの生活に必要不可欠な炭を買って戻っている最中だったのだ。一面雪で覆われた道は一歩間違えれば死が待っていた。里家と呼ばれる場所で両親を亡くした子供達と働きながら生活を送る中、祥瓊はそんな苛烈なまでの虐げを受けていたのだ。それは祥瓊がこの里家に送られてきた真相を閭胥である沍姆が知ってしまったからだった。
やっと帰りつき部屋の片隅で一人祥瓊が食事を取っていると賑やかに話す子供達の会話が聞こえてくる。慶の国に新たな王が即位し、それが祥瓊と同じ年頃の女性であるという内容だった。自分の失った一切のものを全て手に入れた女性。祥瓊は景王に対して憎しみの念を芽生えさせていった。
その頃、慶国では即位の儀式を終えた陽子を、雁国の王と麒麟、そして楽俊が迎えてくれていた。久々に陽子と会う一同は彼女が元気が無いことに気付く。陽子は「初勅」という王が初めて発布する勅令と、慶国にある麦州を治める浩瀚という人物の処分という二つの案件を決めかねてなやんでいたのだ。陽子にはこの国の事が全く分からないために、判断に迷ってばかりだったのだ。それでも自分なりに一人で考えた処分の結論を皆に言い渡す陽子。この時は、皆に認めて貰える意見を決めることができたのだと思ったのだが…。